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第205回 従業員が完成させた著作物の権利は誰に?


ニュース 法律 作成日:2016年7月13日_記事番号:T00065218

産業時事の法律講座

第205回 従業員が完成させた著作物の権利は誰に?

 従業員が完成させた著作の著作権は会社に属すると思っている方が多いようですが、実は台湾の著作権法は「被雇用者が職務上完成させた著作については、当該被雇用者が著作人となる。ただし、雇用者を著作人とする契約の約定がある場合はその約定に従う。被雇用者が著作人である場合、雇用者はその著作財産権を享受する」と規定しており、会社と従業員の間で著作権契約が締結されていない場合、従業員の完成させた著作は、従業員が「著作人」となり、会社はその「著作財産権」を享受するだけにとどまります。

 被告「呂鴻鵬」は、原告「威虹資訊股份有限公司」の織染部部長でしたが、2010年3月に威虹のプログラム著作である「威虹生管系統(生産管理システム)」および「威虹報表列印程式(プリントシステム)」を複製、改正し、「艾恩克布業生管系統」を開発、毎月9,000台湾元の対価で「予智晟実業股份有限公司」にレンタル、使用させました。そのことを知った威虹公司は被告を告訴し、威虹公司が当該プログラム著作に対して持つ著作権を被告が侵害していると主張、検察が公訴を提起しましたが、桃園地方裁判所は「不受理」の判決を下しました。

 判決の中で裁判所は以下の説明を行いました▽「威虹生管系統」および「威虹報表列印程式」の2つのプログラム著作は、共に96年以前に発売されていたものであるため、その著作権の帰属については92年の著作権法が適用される▽同法第11条の規定によると、雇用関係存続中に完成した著作は、原則として被雇用者が著作人格権および著作財産権を享受するとなっている▽被告は96年7月に「威虹染整生管系統」のウィンドウズ版を独自に開発しており、被告と原告の間には当該プログラム著作の権利の帰属に関して何らの約定もされていなかったことから、被雇用者である被告が著作人格権および著作財産権を享受することとなる▽また、「威虹報表列印程式」は威虹公司の別の従業員である「翁世豪」氏が97年に完成させており、92年の著作権法の規定によれば、著作権は翁氏に帰属する▽つまり、威虹公司はこれらプログラム著作の著作権者ではないため、「艾恩克布業生管系統」が「威虹生管系統」または「威虹報表列印程式」の著作権を侵害しているかどうかについて、威虹公司はその「直接被害者」とはなり得ず、告訴を提起することはできない──。

台湾著作権法の欠陥を露呈

 検察はこの判断を不服とし知的財産裁判所に控訴しましたが、知的財産裁判所は15年12月に地方裁判所の判断を支持する判決を下しました。その後、検察は最高裁判所に上告、最高裁判所は今年5月25日に、以下の判断の下、原判決を取り消す判決を下しました。

1.被告と翁氏は共に00年に離職しているが、その在職期間中、前述の2つのプログラムは、威虹公司の他の従業員によって改正され、またホームページ上から顧客に対して無料でダウンロードが提供されていた。しかし、被告と翁氏はそれに対して異議を唱えたことはなかった。

2.2つのプログラムの顧客に対して提供されるバージョンには、威虹公司が著作権者である旨の表示がなされていたが、被告と翁氏は、それに対して異議を唱えたことはなかった。このことからも、被告と翁氏は、原告により雇用され、原告の下でこれら2つのプログラムの設計を担当、プログラム完成後は、それを原告に提供し、二次的著作物の作成や、販売を同意したことが分かる。

3.もし、被告と翁氏が、原告に対して明示または黙示によって、これらのプログラム著作の使用、二次的著作物の作成、販売を授権していたのだとすると、原告は二次的著作物であるプログラムの著作財産権をも取得していることとなる。

 この最高裁判所の判決は、92年の著作権法の荒唐無稽さをよく表しています。最高裁判所の考えは、プログラムが完成した後に他の従業員によって二次的著作物としてのプログラムが作成された場合、当該プログラムの著作権は企業に帰属するというものですが、このような判断では何の問題も解決できません。なぜならば、著作権法は98年の改正の際に「著作財産権は雇用者に帰属する」と改正されていますが、これらプログラムの二次的著作物は、98年以前に完成している可能性があり、その場合、当該著作権は威虹公司に帰属するものとはならないからです。

 また、著作権法における「二次的著作物の作成(中国語:改作)」とは「翻訳、編曲、書き換え、フィルム撮影またはその他方法により、原著作とは別の創作を行うこと」であり、他者の著作を「改正(中国語:修改)」することは「二次的著作物の作成」にはなりません。特にプログラム著作の改正は、通常は一部のパラメーターの変更や、一部の小さなプログラムの追加・削除などを行うにすぎないため、それにより得られた「産物」は、原著作の「複製」または「コピー」にすぎず、二次的著作物とはなり得ないため、そこに新しい著作権が発生することもありません。

 ともあれ、この案件は、台湾の著作権法がいかに無茶苦茶なものであるかを露見させてしまいました。各企業におかれましては、従業員の方との間で著作権帰属契約を締結することで、このような事件を防止することをお勧めします。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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